大日本帝國憲法 告文
皇朕レ謹ミ畏ミ
皇祖
皇宗ノ神靈ニ誥ケ白サク皇朕レ天壤無窮ノ宏謨ニ循ヒ惟神ノ寶祚ヲ承繼シ舊圖ヲ保持シテ敢テ失墜スルコト無シ顧ミルニ世局ノ進運ニ膺リ人文ノ發達ニ隨ヒ宜ク
皇祖
皇宗ノ遺訓ヲ明徵ニシ典憲ヲ成立シ條章ヲ昭示シ內ハ以テ子孫ノ率由スル所ト爲シ外ハ以テ臣民翼贊ノ道ヲ廣メ永遠ニ遵行セシメ益々國家ノ丕基ヲ鞏固ニシ八洲民生ノ慶福ヲ增進スヘシ茲ニ皇室典範及憲法ヲ制定ス惟フニ此レ皆
皇祖
皇宗ノ後裔ニ貽シタマヘル統治ノ洪範ヲ紹述スルニ外ナラス而シテ朕カ躬ニ逮テ時ト俱ニ擧行スルコトヲ得ルハ洵ニ
皇祖
皇宗及我カ
皇考ノ威靈ニ倚藉スルニ由ラサルハ無シ皇朕レ仰テ
皇祖
皇宗及
皇考ノ神祐ヲ禱リ倂セテ朕カ現在及將來ニ臣民ニ率先シ此ノ憲章ヲ履行シテ愆ラサラムコトヲ誓フ庶幾クハ
神靈此レヲ鑒ミタマヘ
++++++++++
大日本帝國憲法 告文(こうもん/おつげぶみ) /ルビ付文
皇朕(わ)レ謹(つつし)ミ畏(かしこ)ミ 皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)ノ神霊(かみのみたま)ニ誥(つ)ケ白(まう)サク
皇朕(わ)レ天壌無窮(てんじょうむきゅう)ノ宏謨(こうぼ)ニ循(したが)ヒ 惟神(かむながら)ノ宝祚(ほうそ)ヲ承継(しょうけい)シ 旧図(きょうと)ヲ保持(ほじ)シテ 敢(あへ)テ失墜(しっつい)スルコト無(な)シ
顧(かへり)ミルニ 世局(せいきょく)ノ進運(しんうん)ニ膺(あた)リ 人文(じんもん)ノ発達ニ随(したが)ヒ 宜(よろし)ク皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)ノ遺訓(いくん)ヲ明徴(めいちょう)ニシ 典憲(てんけん)ヲ成立シ 条章(じょうしょう)ヲ昭示(しょうじ)シ 内(うち)ハ以(もち)テ子孫(しそん)ノ率由(そつゆう)スル所(ところ)ト為(な)シ 外(そと)ハ以(もち)テ臣民(しんみん)翼賛(よくさん)ノ道(みち)ヲ広(ひろ)メ 永遠(えいえん)ニ遵行(じゅうんこう)セシメ 益々(ますます)国家ノ丕基(ひき)ヲ鞏固(きょうこ)ニシ 八洲(やしま)民生(みんせい)ノ慶福(けいふく)ヲ増進(ぞうしん)スヘシ 茲(ここ)ニ皇室典範(こうしつてんぱん)及憲法ヲ制定ス
惟(おも)フニ此(こ)レ皆(みな) 皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)ノ後裔(こうえい)ニ貽(のこ)シタマヘル統治(とうち)ノ洪範(こうはん)ヲ 紹述(しょうじゅつ)スルニ外(ほか)ナラス。而(しか)シテ 朕(ちん)カ躬(み)ニ逮(および)テ時(とき)ト倶(とも)ニ挙行(きょこう)スルコトヲ得(う)ルハ 洵(まこと)ニ皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)及 我カ皇考(こうこう)ノ威霊(いれい)ニ倚藉(いしゃ)スルニ由(よ)ラサルハ無(な)シ
皇朕(わ)レ仰(あおぎて)テ皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)及皇考(こうこう)ノ神祐(しんゆう)ヲ祷(いの)リ 併(あわ)セテ朕カ現在及将来ニ臣民(しんみん)ニ率先(そっせん)シ 此ノ憲章(けんしょう)ヲ履行(りこう)シテ愆(あやま)ラサラムコトヲ誓(ちか)フ
庶幾(ねがわ)クハ神霊(かみのみたま)此(こ)レヲ鑒(かんがみ)ミタマヘ
[憲法發布敕語]
朕 國家ノ隆昌ト 臣民ノ慶福トヲ 以テ中心ノ欣榮トシ 朕カ祖宗ニ承クルノ大權ニ依リ 現在及將來ノ臣民ニ對シ 此ノ不磨ノ大典ヲ宣布ス
惟フニ 我カ祖我カ宗ハ 我カ臣民祖先ノ協力輔翼ニ倚リ 我カ帝國ヲ肇造シ 以テ無窮ニ垂レタリ 此レ我カ神聖ナル祖宗ノ威德ト 竝ニ臣民ノ忠實勇武ニシテ 國ヲ愛シ 公ニ殉ヒ 以テ此ノ光輝アル國史ノ成蹟ヲ 貽シタルナリ 朕 我カ臣民ハ 卽チ祖宗ノ忠良ナル臣民ノ子孫ナルヲ囘想シ 其ノ朕カ意ヲ奉體シ 朕カ事ヲ奬順シ 相與ニ和衷協同シ 益々我カ帝國ノ光榮ヲ 中外ニ宣揚シ 祖宗ノ遺業ヲ 永久ニ鞏固ナラシムルノ希望ヲ同クシ 此ノ負擔ヲ分ツニ堪フルコトヲ疑ハサルナリ
[帝國憲法上喩]
朕 祖宗ノ遺烈ヲ承ケ 萬世一系ノ帝位ヲ踐ミ 朕カ親愛スル所ノ臣民ハ 卽チ朕カ祖宗ノ惠撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ 其ノ康福ヲ增進シ 其ノ懿德良能ヲ發達セシメムコトヲ願ヒ 又其ノ翼贊ニ依リ 與ニ俱ニ國家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ 乃チ明治十四年十月十二日ノ詔命ヲ履踐シ 茲ニ大憲ヲ制定シ 朕カ率由スル所ヲ示シ 朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ 永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム
國家統治ノ大權ハ 朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ 之ヲ子孫ニ傳フル所ナリ 朕及朕カ子孫ハ 將來此ノ憲法ノ條章ニ循ヒ 之ヲ行フコトヲ愆ラサルヘシ
朕ハ 我カ臣民ノ權利及財產ノ安全ヲ貴重シ 及之ヲ保護シ 此ノ憲法及法律ノ範圍內ニ於テ 其ノ享有ヲ 完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス
帝國議會ハ 明治二十三年ヲ以テ之ヲ召集シ 議會開會ノ時ヲ以テ 此ノ憲法ヲシテ 有效ナラシムルノ期トスヘシ
將來 若 此ノ憲法ノ或ル條章ヲ 改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ 朕及朕カ繼統ノ子孫ハ 發議ノ權ヲ執リ 之ヲ議會ニ付シ 議會ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ 之ヲ議決スルノ外 朕カ子孫及臣民ハ 敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ
朕カ在廷ノ大臣ハ 朕カ爲ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク 朕カ現在及將來ノ臣民ハ 此ノ憲法ニ對シ 永遠ニ從順ノ義務ヲ負フヘシ
御名(睦仁)御璽
明治二十二年二月十一日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
樞密院議長 伯爵 伊藤博文
外務大臣 伯爵 大隈重信
海軍大臣 伯爵 西鄕從道
農商務大臣 伯爵 井上 馨
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣兼
內務大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山 巖
文部大臣 子爵 森 有禮
遞信大臣 子爵 榎本武揚
[大日本帝國憲法]
第一章 天皇
第一條
大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第二條
皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ繼承ス
第三條
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
第四條
天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ此ノ憲法ノ條規ニ依リ之ヲ行フ
第五條
天皇ハ帝國議會ノ協賛ヲ以テ立法權ヲ行フ
第六條
天皇ハ法律ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス
第七條
天皇ハ帝國議會ヲ召集シ其ノ開會閉會停會及衆議院ノ解散ヲ命ス
第八條
天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル爲緊急ノ必要ニ由リ
帝國議會閉會ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ發ス
此ノ勅令ハ次ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出スヘシ若議會ニ於テ
承諾セサルトキハ政府ハ將來ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ
第九條
天皇ハ法律ヲ執行スル爲ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ
及臣民ノ幸福ヲ増進スル爲ニ必要ナル命令ヲ發シ又ハ發セシム
但シ命令ヲ以テ法律ヲ變更スルコトヲ得ス
第十條
天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス
但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各〃其ノ條項ニ依ル
第十一條
天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第十二條
天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
第十三條
天皇ハ戰ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ條約ヲ締結ス
第十四條
天皇ハ戒嚴ヲ宣告ス
戒嚴ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第十五條
天皇ハ爵位勲章及其ノ他ノ榮典ヲ授與ス
第十六條
天皇ハ大赦特赦減刑及復權ヲ命ス
第十七條
攝政ヲ置クハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル
攝政ハ天皇ノ名ニ於テ大權ヲ行フ
・・・・・・・・・・
[皇室典範]
天佑ヲ享有シタル我カ日本帝國ノ寶祚ハ萬世一系歴代繼承シ以テ朕カ躬ニ至ル惟フニ祖宗肇國ノ初大憲一タヒ定マリ昭ナルコト日星ノ如シ今ノ時ニ當リ宜ク遺訓ヲ明徴ニシ皇家ノ成典ヲ制立シ以テ丕基ヲ永遠ニ鞏固ニスヘシ
茲ニ樞密顧問ノ諮詢ヲ經皇室典範ヲ裁定シ朕カ後嗣及子孫ヲシテ遵守スル所アラシム
御名(睦仁)御璽
明治二十二年二月十一日
第一章 皇位繼承
第一條
大日本國皇位ハ祖宗ノ皇統ニシテ男系ノ男子之ヲ繼承ス
・
・
・
第二章 踐祚即位
第十條
天皇崩スルトキハ皇嗣即チ踐祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク
・
・
*明治23年(1890)11月29日 施行
・
皇室典範及皇室典範增補廢止ノ件(昭和二十二年五月一日)
明治二十二年裁定ノ皇室典範竝ニ明治四十年及大正七年裁定ノ皇室典範增補ハ
昭和二十二年五月二日限リ之ヲ廢止ス…